完成をみた山鳥毛の刃文帯の初号機から最初の三本を瀬戸内市のアイリー様へご納品させていただきました。
そこからジェットコースターのような展開が始まりましたがそのあたりは次の記事でまとめたいと思います。
今回は山鳥毛刃文帯の織についての解説を中心に語らせていただきます。織物としては動力織りの仕上げです。手機(てばた)ではありません。もし手機で仕上げるとするなら素材は同じでも市場価格として現在の2.5倍〜3倍になるかと思います。手機の高付加価値100万オーバーの帯を世に出すべき!とは思えませんでした。僕自身がなんとか手が届く範囲の開発の組み立て、自社の生地の開発のあいだに挟んで製作を目指していたところからの立案です。織物の世界では動力織の織機のことを力織機(りきしょっき)と言います。力織機だからといって全てオートメーションの自動で生産できる訳ではなく、細かく調整を加え仕上げます。手機も動力織も大変なことに変わりはありません。
技術的なことをどこまで語るべきかも含め、刃文帯の開発には全責任を持ち織物図案を描くことに始まり類似品を防ぐためにも機場非公開など書けないことも多数あります。織物として私の手で織っている仕事ではありませんが備前長船、山鳥毛刃文帯の界隈で私は「西陣織の先生」と呼ばれます。染色家の私としては少々苦笑もので、昔から僕をよく知る方や作家仲間からはツッコミ多数…いつから染織家になったんや!と。僕個人というより弊社のアトリエのものづくりの新たな展開、皆さまからのご相談やご依頼は「染織」を併せ持って受けるべきかと思っておりますので好きに呼んでもらえたらと思います。
刃文の織の完成度は満足の出来としても染色家としては白場、染めの余地を残しておきたいというところで余白の美として「白」を大切にしました。
この話は余談ですが、当時まったく知らなかった刀剣乱舞・山鳥毛さんのイメージと相まったものに仕上がっていたという奇跡。そこに染めも加えられるオプションを想定しておいた白場が大正解でした。
当初からのご依頼の一つに「山鳥毛」の文字を織り込んだ生地に仕上げてほしいという内容があり、様々な書体を書いては捨ての連続でバランスなど勘案して決めていたものがありました。「刃文の中に織り交ぜてほしい」という要望でした。何度やっても上手くいかない、だったら白場にいれよう!と発想をかえました。ここでまた大仕事をしてくださったのがご監修の安藤刀匠。「山鳥毛」と書いた僕の文字を見るやいなや上杉景勝の御手選三十五腰の「山てうまう」の文字しかないですよ!!と一言。この一言をいただけたおかげで景勝の手による「山てうまう」の文字から書きおこし、写しを白場に織り込むことに相成りました。安藤刀匠、本当にありがとうございました。そんな刀匠ご本人と山鳥毛の帯のお話以外多く語ったことはありませんが、漢黙して語らず。
そのお背中とお仕事振りで私を刀剣のワンダーランドへいざなってくださったキーマンのお一人です。
織が主体としても染めでカラーバリエーションも対応できる「山鳥毛刃文柄」の帯地が完成を迎えたのです。
令和5年3月24日更新 第8話おわり(つづく)