■絞り染色作家 藤井 浩   


「もの作りにおいて大切なのは技術や構図だけでなく、いかにオリジナル性に富んだ作品創りが出来るかにかかっている。

作品を見ただけで<藤井浩>とわかるもの作りに精進し、その思いを次世代にも伝えていきたいと思う。」そう語る藤井浩は、2020年に染色の道45年を迎えることになる。

歌手、八代亜紀さんの舞台衣装を多く手掛けていることでも有名。歌と振袖のチャリティファッションショーを共同で開催したこともある。フランスの国際公募展として世界最古の伝統と歴史をもつル・サロンの永久会員であり世界的な画家としても知られる八代さんとはアーティスト同士の熱い友情で結ばれている。  六人兄弟の末っ子。染工場で働く両親の背中を見て育った。サッカーに打ち込んだ学生時代を過ごし中央大学で学んだ後、商社マンに。何万反という反物に触れ、出向先の百貨店で感性を磨いた。後継者がいないという理由から脱サラして家業を継いだ。


オリジナリティーを生み出さない限り、下請けとしてしか扱われないことを、子供の頃から嫌というほど知っていた。十年間は試行錯誤の繰り返しだった。

今、藤井浩は染の中でも、もっとも工程の数が多いといわれる絞りをあやつり、素描きやぼかしなどの染色技法も駆使し独自の世界をのびのびと描く。用いる技法のひとつである浸染の桶絞りは、染め分けに昔ながらの桶を使用する。別色の部分を桶にきっちりと納め、残りを釜の中の染液に浸けるという近代考案された、伝承の多色染め分けのための防染加工・絞り技術である。

飛鳥天平時代からの天平の三纈に代表される伝統の絞りが彼の筆を走るといままで気づかなかったような色彩が生まれ、無限にイメージが広がってゆく。

伝統の技を磨きつつ新たに時代に合ったものを創りつづけていると、いつの間にかそれらが芸術の域にまで高められ、作品を身にまとう人の姿をより美しくきわだたせる。 彼の作品は一見奇をてらった様見えもするが、身にまとった際の艶やゆらぎの感覚が他に類をみない見事なコーディネートで、ドレス感覚で楽しめるおしゃれな作品として評判を呼んでいる。ファン層は著名人のみならず老若男女幅広く圧倒的にリピーターが多い。


現代を代表する絞り染作家としてその評価は高く、長年にわたり独創の美を築いて来た。

彼の歩みと作品は古典的な美の概念に対し、斬新にしたたかに可能性を求めつづければその先に新たな文化が形づくられることを教えてくれる。

迷いのない構図と大胆で透明感のある色彩は、ヨーロッパで多くの芸術作品に触れたことによる影響が大きい。


仕事のパートナーは大切な家族たち。二人三脚で歩んできた妻・朝子、次世代の担い手として、染めを含む和装の新たな可能性を探る長男の裕也とスタッフ全員で「力を合わせ気持ちよく仕事をしていきたい」と率直に語る。

 

さまざまな色彩を彼は自由に躍動させる。