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国宝太刀無銘一文字(山鳥毛)刃文帯 制作秘話⑩

刀剣の里からのオファーからスタートした刃文帯の開発。刀剣や豪華絢爛な山鳥毛の刃文を知らない方にもステキと思ってもらえたらと思いますし、僕自身は山鳥毛さんの世界観をジャマしたくないのでそれぞれの物語を自由な発想で紡ぎお楽しみ頂けるのなら望外の喜びです。

ファイナル10話、最後はやはり上杉謙信、景勝の愛刀・山鳥毛につながる上杉家の物語で締めたいと思います。ラストスパート審神者の皆さまは過去の歴史介入のための基礎知識として、それ以外の方は歴史の勉強にお付き合いくださいませ。さらに詳しい方はご教示くださいませ。

上杉氏は公家の藤原北家勧修寺(かしゅうじ)流の出自。勧修寺流の祖とされているのは藤原高藤の子である藤原定方。定方が山科に勧修寺を建立したことからこの一門の名前となりました。

鎌倉幕府の六代将軍として京都から宗尊親王が迎えられた時上杉氏の祖となる藤原重房が丹波國(京都の綾部)上杉庄より下向、足利泰氏に仕えることになり重房の子・頼重の娘が足利貞氏と婚姻、足利尊氏を生むに至たり、外戚として以降ますます上杉家が重宝されることになります。

頼重の子、憲房の流れに山内上杉と続きやがて数代のち、長尾輝虎が山内上杉家の家督と関東管領職を相続、長尾輝虎より名を上杉政虎にあらためやがて誰もが知ることになる戦国武将・上杉謙信になります。家督として上杉氏は脈々と謙信、景勝と継承されます。

さてここで源氏物語の登場です。上杉謙信が愛読者であったことはあまりにも有名です。謙信上洛のおり公家近衛前久らと源氏物語について語りあかしたと伝わります。そんなところから謙信が女であったのでは?と唱える方もいます。源氏物語は当時、女性しか読まなかった恋物語、忌むべき小説をなぜ読んでいたのかという話です。

光源氏と明石御方の恋の話は藤原高藤と宮道列子の逸話を元に2人の子孫にあたる紫式部が源氏物語に書いたと言われてます。

高藤は藤原定方の親、定方はのち上杉氏の祖となる藤原重房の遠祖で繋がってます。

当然ながら上杉の遠祖の縁、謙信は熟知していたはずで紫式部の源氏物語を愛読していたことは自然なことかと思われます。

推測のひろや説で申し訳ないのですが、むしろ当時小説が忌むべきとされているものであるなら尚のこと謙信は毘沙門天の化身として上杉の遠祖のつむいだ物語の供養が必要と読破していたのかもしれませんね。女性の身を変え男性の身に成る女人成仏の方法を示す「変成男子(へんにょうなんし)」の考えの男性版、男子の身のまま女の神毘沙門天の化身になるため「変成女子(へんにょうじょし)」として謙信は生涯不犯を貫いたのかもと考えたりもします。

今昔物語集の高藤の内大臣の語に藤原北家の内大臣・藤原高藤が若かったころ宇治郷南山科で鷹狩中に雷雨に遭い宮道弥益の邸で雨宿りして一夜を過ごし、その夜見初めた弥益の娘・列子(たまこ)と結ばれる話しがあります。高藤は結婚の約束をして帰るのですが一夜の契りにより胤子を授かりました。六年越しで身分の差を越え列子を妻としてむかえることになりやがて大納言・藤原定国、右大臣・藤原定方を生むことになりました。後に成長した胤子は宇多天皇の女御となり醍醐天皇を生むというもの。究極の玉の輿、サクセスストーリーですよね。弥益の家はお寺に改められ「勧修寺」になります。紫式部による平安時代の源氏物語はこの列子と高藤の身分格差のある二人が結ばれた話として光源氏と明石の君による身分違いの恋の話のモデルになったと言われています。お寺としての読み方の勧修寺は「かしゅうじ」地名としては「かんしゅうじ」と読みます。

上杉家のいわば遠い昔の物語で繋がっている古里とも言える山科。だからこそ源氏物語の刀剣乱舞の舞台、禺伝のストーリーも飛び上がるほどびっくりしました。

上杉謙信と景勝の愛刀からの取材をすすめるうちに工房のある「山科」とこんなカタチで繋がっていることに驚きを隠せませんでした。

これはやるしかない!と思うことしばし。偶然にしてはあまりにも出来すぎてるこの背景など必然を感じざるを得ませんし動かされてる感満載のこの一年の振り返りになります。

本来の意味の審神者(さにわ)神託を受けたものをわかりやすく伝える役割のような物語を紐とく絵解き師になったような気分です。

上杉と源氏物語の共通点「竹に二羽飛び雀」紋の背景を高藤勧修寺流は刀剣乱舞のストーリーから気づきましたので、たとえゲームが史実と違ってたとしても深いところでプログラミングされている刀剣乱舞の物語、プレイヤーとして審神者やってて良かった!と思いました。

宮道列子と藤原藤高ゆかりの勧修寺、宮道神社はうちの工房のある「山科」にあります。藤原(中臣)鎌足の本拠地でもあります。そんな中臣遺跡近くに円墳があり列子や初代征夷大将軍坂上田村麻呂のお墓や古代たたら跡、小狐丸を打った三條小鍛冶の旧跡花山稲荷、毘沙門堂など洛中の田の字地域とはまた違うディープな旅をされたい方は是非「京都山科」に遊びにいらしてください。

ここまでお読みくださいましてありがとうございます。読みにくい点や至らぬところはあろうかと思いますが引き続き宜しくお願い申し上げます!


第10話 令和5年3月27日更新(おわり)